クリニック開業の設計|物件契約前に確認する8項目

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クリニック開業の設計|物件契約前に建築家と確認したい8つのポイント

クリニックの開業では、診療内容や立地だけでなく、候補物件で必要な診察室や医療機器を配置できるか、患者とスタッフの動線を分けられるか、電気・給排水・空調などの設備条件を満たせるかを、物件契約前に確認することが重要です。

条件を十分に確認せずに土地やテナントを契約すると、設計を始めてから「必要な広さが足りない」「医療機器を設置できない」「想定以上の設備工事が必要」と分かることがあります。予定していた開業時期や総予算に影響するだけでなく、診療方針そのものを見直さなければならない場合もあります。

クリニックの設計は、内装を整えるだけの仕事ではありません。診療科、患者数、スタッフ数、医療機器、感染対策、プライバシー、将来の診療内容まで整理し、それらを建築と設備へ反映する必要があります。

この記事では、医院・クリニックの新築、テナント開業、移転開業を検討する方に向けて、物件選び前から建築家と確認したい8つのポイントを解説します。

なお、すでに診療しているクリニックの改装工事では、休診期間、診療を続けながら行う分割工事、既存設備の再利用など、開業とは異なる検討が必要です。クリニックの改装については、別の記事で詳しく解説します。

建築家が設計したRC造クリニックの曲面受付カウンター
RC造クリニックの受付空間 設計:株式会社坂田基禎建築研究所

1. クリニックの設計は物件契約前から始める

クリニックの候補物件を見るときは、立地、賃料、面積、外観だけで判断することはできません。その建物で希望する診療を行えるか、建築・設備・法規の面から確認する必要があります。

テナントであれば、既存の電気容量、給排水の位置、空調方式、換気経路、床荷重、天井高、搬入経路などを調べます。新築であれば、敷地の用途地域、接道、建ぺい率・容積率、駐車場の確保、周辺環境などを確認します。既存建物を医院へ改修する場合は、現在の用途、用途を変更する部分の面積、建物規模、工事内容などによって、建築確認などの手続きが必要になることがあります。確認申請が不要な場合でも、関係する規定への適合確認は必要です。

また、保健所への手続きは、開設者が医師個人か医療法人などか、有床か無床か、診療内容や所在地によって異なります。大阪府は、診療所の開設や構造変更にあたり、必要に応じて所管保健所へ事前相談するよう案内しています。大阪市、堺市、府内の中核市などでは窓口や様式が異なるため、候補物件の所在地を管轄する保健所へ契約前に確認することが大切です。建築関係部署や消防への確認も併せて進めます。

大阪府「診療所にかかる様式」

2. 新築・テナント・移転開業の違いを整理する

同じクリニックの開業でも、新築、テナント、既存医院からの移転では、設計の自由度、必要な期間、費用の考え方が異なります。

新築では、診療内容に合わせて建物全体を計画しやすく、患者動線、スタッフ動線、駐車場、将来の増築まで一体的に検討できます。一方で、土地取得、設計、申請、工事に時間が必要です。

テナント開業は、既存建物を利用するため比較的早く計画を進められる可能性があります。ただし、構造、設備容量、給排水経路、避難経路、管理規約などの制約を受けます。希望する面積があっても、設備条件によっては診療内容に適さない場合があります。

既存医院からの移転開業では、現在の診療を続けながら新しい医院の工事を進めるため、休診期間、医療機器の移設、患者への案内、スタッフの通勤なども含めて工程を組み立てます。現在の医院で感じている使いにくさを整理し、新しい動線や設備計画へ反映することも重要です。

最初に方式を決めるのではなく、開業時期、立地、診療内容、将来計画、総予算を比較し、計画に合う方法を選ぶことが大切です。

3. 医療法・建築・消防・バリアフリーの条件を確認する

クリニックには、医療法に基づく構造設備などの規定が関係します。適用される内容は、開設者、有床・無床、診療内容などによって異なります。エックス線装置などを設置する場合も、装置の種類や使用方法に応じて、所定の届出や診療室の遮へいなどの放射線防護措置を検討する必要があります。診療科と導入する医療機器を設計初期に整理することが重要です。

e-Gov法令検索「医療法施行規則」

同時に、建物の用途や規模、所在地に応じて、建築基準法、消防法、自治体の条例、バリアフリーに関する基準などを確認します。患者が利用する出入口、廊下、受付、待合、診察室、便所までの移動を考え、段差、扉の幅、車椅子の回転スペースなどを計画します。

法令上の最低条件を満たすだけでなく、高齢者、車椅子利用者、ベビーカーを利用する方、視覚・聴覚に障害のある方など、多様な患者が迷わず安全に利用できるかという視点が重要です。

国土交通省「建築物におけるバリアフリーについて」

4. 診療科と医療機器から必要面積を考える

必要な広さは、診察室の数だけでは決まりません。受付、待合、処置室、検査室、スタッフルーム、医薬品・備品の収納、廃棄物の保管場所、機械室など、診療を支える空間も必要です。

また、同じ面積でも、診療科と医療機器によって使い方は異なります。画像診断装置、検査機器、歯科ユニットなどを設置する場合は、機器の寸法だけでなく、保守点検のスペース、電源、給排水、防護、搬入経路なども確認します。

開業時の機器だけに合わせて設計すると、将来、機器の更新や診察室の追加が難しくなることがあります。5年後、10年後の診療体制も想定し、配線や配管の余地、間仕切り変更の可能性、設備容量を検討しておくことが重要です。

5. 患者・スタッフ・搬入の動線を分けて考える

クリニックの使いやすさは、面積の大きさよりも動線計画に左右されることがあります。設計では、主に次の流れを整理します。

  • 患者が入口から受付、待合、診察、会計へ進む動線
  • 医師、看護師、スタッフが診察室や処置室を移動する動線
  • 医薬品、器材、リネンなどを搬入する動線
  • 使用済み器材や医療廃棄物を回収・保管する動線

診療科によっては、感染症の疑いがある患者と一般患者の待機場所を分けたり、入口や診察経路を分けたりする検討も必要です。スタッフが患者動線を何度も横切る計画では、診療効率が下がり、プライバシーへの配慮も難しくなります。

平面図の見た目だけでなく、受付から会計までを実際の運営手順に沿って検証することで、限られた面積を有効に使えます。

建築家が設計したRC造クリニックの待合・受付空間
RC造クリニックの待合・受付空間 設計:株式会社坂田基禎建築研究所

6. 電気・給排水・空調・換気・遮音を確認する

テナント選びで特に見落とされやすいのが、建物の設備条件です。医療機器や空調設備を増設すると、既存の電気容量では足りないことがあります。水回りを移動する場合は、給排水管の位置や勾配、床下寸法が計画に影響します。

空調と換気は、待合、診察室、処置室、スタッフスペースなど、用途に合わせて検討します。におい、温度差、感染対策に配慮し、必要に応じて部屋ごとに運転や換気量を調整できる計画が求められます。

さらに、診察内容や会話が待合や隣室へ聞こえないよう、壁、扉、天井裏、設備配管まわりまで考えた遮音計画が必要です。テナントでは上階・下階や隣接店舗への振動・騒音にも配慮します。

設備工事は完成後に変更しにくく、追加費用も生じやすい部分です。内装デザインを決める前に、必要な設備性能と既存建物の条件を確認することが大切です。

7. プライバシーと安心感を空間でつくる

患者にとって、クリニックは期待と同時に不安を感じやすい場所です。明るさ、素材、色、音、視線の抜け方を整えることで、安心して過ごせる環境をつくることができます。

一方で、開放感だけを優先すると、受付での会話が聞こえる、診察室内が見える、患者同士の視線が重なるといった問題が生じます。受付の位置、待合席の向き、診察室の扉、呼び出し方法などを一体的に計画しなければなりません。

デザインは装飾を加えることではなく、診療方針を患者へ伝え、スタッフが働きやすく、患者が落ち着いて行動できる環境を整えることです。建築家は、機能と印象を分けずに設計します。

8. 工事費だけでなく開業までの総予算と期間を考える

クリニック開業の費用は、内装工事費だけでは判断できません。計画によって、次のような費用が関係します。

  • 土地・建物の取得費、保証金、賃料
  • 設計監理料、構造・設備設計費
  • 建築・内装・設備工事費
  • 医療機器、什器、造作家具、サインの費用
  • 各種調査、申請、届出に関する費用
  • 移転費、既存機器の搬送・再設置費、開業準備中の固定費
  • 予備費

テナント工事では、建物側が行う工事、指定業者が行う工事、借主が行う工事に分かれることがあります。見積範囲を揃えずに比較すると、後から別途工事が追加される可能性があります。

期間についても、設計、行政との事前協議、申請・届出、工事、医療機器の搬入、検査、開業準備を逆算する必要があります。物件契約時に発生する賃料や融資の予定も含め、開業日から逆算した工程を早い段階で整理しましょう。

設計監理料の考え方については、建築家の設計料と業務内容を解説した記事もご覧ください。

クリニック設計を建築家へ依頼する意味

クリニックの計画では、診療方針、運営、法規、設備、デザイン、予算を別々に考えることはできません。建築家は、医師やスタッフのご要望を整理し、関係する専門家や行政、医療機器業者などと調整しながら、建築としてまとめます。

また、設計と施工を分ける場合、建築家が実施設計図を作成し、計画に適した工務店の選定や見積内容の確認を行います。工事中は、工事が設計図書に沿って進んでいるかを施工者とは異なる立場から確認します。

クリニックは完成した時点だけでなく、開業後に安全で効率よく運営できることが重要です。限られた面積や予算の中で優先順位を整理し、診療方針に合う空間へつなげることが建築家の役割です。

施工事例|RC造クリニックの設計

建築家が設計したRC造クリニックの明るい待合空間
RC造クリニックの待合空間 設計:株式会社坂田基禎建築研究所

掲載している事例は、株式会社坂田基禎建築研究所の建築家・坂田基禎氏が設計したRC造のクリニックです。アーキソシエイツでは、医院の新築、テナント開業、医院併用住宅、移転開業など、計画に合う建築家をご提案しています。

クリニックの設計では、患者が安心して利用できる空間と、医師・スタッフが機能的に働ける環境の両立が必要です。建物の構造や規模だけでなく、診療内容、立地、将来計画を踏まえて建築家を選ぶことが重要です。

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相談時に準備したい資料

候補物件や土地がある場合は、次の資料があると初期検討を進めやすくなります。

  • 物件の募集図面、平面図、設備資料
  • 賃貸条件、管理規約、工事区分表
  • 土地資料、測量図、用途地域などの情報
  • 予定する診療科、診察室数、患者数、スタッフ数
  • 導入予定の医療機器とメーカー資料
  • 希望する開業時期と総予算
  • 現在の医院で改善したい点

すべての資料が揃っていなくても相談できます。まず、何が決まっていて、何を確認する必要があるかを整理することから始めます。

まとめ|物件を決める前の確認が、クリニック計画の質を左右する

クリニックの設計では、物件契約後に間取りを考え始めるのではなく、契約前に診療内容、法規、動線、医療機器、設備、工事費、開業時期を確認することが重要です。

外観や面積だけでは適否を判断できません。候補物件の条件を建築家が読み解き、希望する診療を実現できるか、追加工事にどの程度の費用が必要かを整理することで、開業後の運営まで見据えた判断ができます。

アーキソシエイツでは、大阪・兵庫を中心とする関西で、開業予定地やテナントがまだ決まっていない段階でもご相談いただけます。候補物件の図面や募集資料を確認し、必要な広さ、動線、設備、法規、工事費の見通しを整理したうえで、計画に適した建築家と工務店をご提案します。

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